農業者・漁業者の労働環境配慮 特設生鮮品売り場 価格競争と一線を画す[未来社会を拓くサプライチェーンマネージメント]
□ 今日の一言
欧米では、環境や労働安全に配慮した農場や水産業で収穫された生鮮品の国際認証が進んでいます。日本は、遅れていたのですが、イオンやセブン&アイが、ようやく始めました。国際認証をつけた優良品は、売り場を別にわけて販売されます。
土曜ブログ「未来社会を拓くサプライチェーンマネジメント」
2018年12月1日(土)
□農業者・漁業者の労働環境配慮 特設生鮮品売り場 価格競争と一線を画す
☆前書き
イオンとセブ&アイは、環境や労働安全に配慮した生鮮品について、一般商品と区別した販売を始めました。2018年11月19日の日本経済新聞の夕刊に、これが出ていました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。記事は、以下のように書き出しています。
☆引用
「食品スーパーの間で、環境や労働安全に配慮した、生鮮品を扱う動きが広がっている。イオンは、国際認証を得た農場で作った、タマネギなど3種類の野菜の、全国販売を始め、生産サイトでの生産工程を公開。セブン&ホールディングスは、水産物で、似た取り組みを始めた。消費者の間で、社会・環境に配慮した『エシカル(倫理的)消費』の関心が高まっているのに対し、価格競争から一線を画す狙いもありそうだ。」
☆解説
環境や労働安全を含む食の安全と、持続可能な生産管理に与えられる農場や、同様な規格に適合した漁業に与えられる国際認証は、今、世界で急速に広がっています。でも、日本では、何時、始まるのだろうかと、私は、やきもき、していました。ここで、ようやく、始まりました。
最初に、先鞭をつけたのはイオンです。イオンは、先進的な生産管理を実施している農場で、生産された農産物であることを国際的に認証する「GGNラベル(注1)」を、付与した商品の販売を始めました。2018年11月に、専用のウェブサイトを開設しました。ラベルに記載された認証番号を入力すると、世界のどこで誰が作ったかなど情報がわかります。これは農業従事者の働く環境など、全ての生産工程を『見える化』し、安全や安心を意識する消費者の取り込みを、目指しているものです。
まず、全国のイオンやマックスバリューなどの店舗で「GGNラベル」を付けたタマネギやジャガイモ、バナナの販売を順次始めました。イオンは水産物でも、これと同様の動きを強化しています。2018年10月中旬から、調理済み魚惣菜について、持続可能な漁業に与えられる「MSC認証(注2)」や、同認証の養殖魚に与えられる「ASC認証(注2)」付きの魚を増やしています。
その他の各社でも、同様な動きが広がっています。セブン&アイは、2018年10月末から、イトーヨーカドーなどで、MSC認証を取得した「辛子明太子」を、グループのプライベートブランドとして発売しました。12月上旬からは、全国2万店のセブンイレブンで取り扱います。
☆まとめ
持続可能な農業や漁業の国際認証は、欧米では、既に広く拡がっています。少し古い資料ですが、MSCについて、世界の状況を示す資料が発表されていますので、報告しておきます。
国際NGOの海洋管理協議会(MSC)は、2016年10月12日、年次報告書「Annual Report 2015-16」を発表しました。同NGOが提供する「MSC認証」が順調に世界の漁業に普及していることを紹介しています。MSC認証には、漁業事業者に対する「漁業認証」と、加工・流通事業者に対する「CoC認証」の2つで構成されています。そのうち「漁業認証」取得事業者の2015年度の捕獲量は、前年比6%増加しました。また「CoC認証」のもとでの流通量は、前年比16%増加しています。
この報告書によりますと、MSC「漁業認証」を取得した事業者は、36ヶ国288事業者です。そのうち当期の新規取得事業者は38社でした。2015年度の「漁業認証」取得事業者の総水揚量は930万トンで、これは世界の漁獲量全体の10%に相当します。とりわけ欧米でのMSC認証の普及率は高く、太平洋北東部の水揚量の83%(260万トン)、大西洋北東部の水揚量の40%(300万トン)がMSC認証を受けています。一方、世界的に水揚量の多いアジア地域では、太平洋北西部の水揚量の6%(120万トン)、太平洋中西部の水揚量の5%(63万トン)しか、MSC認証を受けていないのです。
流通・加工過程で認証水産物と非認証水産物が混じることを防ぐCoC認証については、取得事業者数が2,879社から3,334社に増加しました。この時点で82ヶ国、37,121ヶ所の加工所、レストラン、仕出し屋などがCoC認証取得下で運営されています。また、MSC認証の下で小売販売されている商品数は、世界で2万品目を突破しています。商品販売総額にして46億米ドル(約4,800億円)にも及んでいます。
さらに、MSCは、MSC「漁業認証」を取得した魚介類が、小売までのサプライチェーン上で、適切にラベル管理されているかどうかについても、検証を進めていました。現在、食品認証の正確さは70%ほどだと言われています。今回MSCは、サンプル抽出での追跡調査を、世界で256件実施しました。。ドイツで1件のラベル不適格が発見された以外は、世界255件の調査で、ラベリングは適切でした。 すなわち、日本を含むアジアは、著しく認識が遅れているのです。イオンの今回の取り組みは、アジアでは最初の快挙でした。でも、世界の先進国として、もう少し早く、欧米の追跡を始められなかったのでしょうか。足元の収支で、少しでも赤字が出る見通しになると、見送る消極性が、今の日本企業の全体としての弱さです。日本の消費者は、社会の成熟の中で、とても敏感になっています。早期に主旨を良く説明してテストすれば、積極的な反応があったと想像します。
(参考資料1、2018.11.19、日経夕刊を参照して記述。「 」内は引用)
(注1) グローバルGGNラベル:グローバルGAP認証を取得した農場でつくられた農産物
であることを示すラベル(Global.GAP.Numberラベル)。グローバルGAPは、環境
や労働安全への配慮を含む、食の安全と持続可能な生産管理を実施する農場の国際認
証。
(注2) MSC認証:国際的な非営利団体である海洋管理協議会(Marin
Stewardship Council, MSC)の環境規格に適合した漁業で獲られた水産物に認められ
る認証。ASC認証:養殖版海のエコラベル。ASC(Aquaculture Stewardship
Council:水産養殖管理協議会)」の認証。
参考資料
(1)日本経済新聞、2918年11月19日(夕刊)
月刊 椎野潤ブログ集 2018年2月号が、出版になりました。
タイトルは「シェアビジネスの広がり―所有からの解放が向かう先」です。
本書の中では、「車、自転車、オフィス、そして洋服・アクセサリーにまでシェアリングエコノミーが広がる事例が紹介されています。それは、所有より求める機能のみを享受したいという市場の広がりでもあります。所有するさまざまな負担から解放されるとき、人々のエネルギーはどこに向かうのでしょうか。」そのことを2月号のタイトルにしました。
このタイトルは、「GR現代林業」の白石善也さんに付けていただきました。また、この解説は、白石さんから、お話しをうかがって書いたものです。
月刊ブログ集の今月号のアマゾンサイトのアドレスは以下の通りです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865582061/
最近のブログは、過去ブログを多く引用しています。本書を座右において、参照いただくと便利だと思います。月間ブログ集が、2017年9月号〜2018年2月号と6冊揃いました。それで私のブログを書く作業は、凄く楽になりました。
直近6ヶ月にブログを書いたものは引用して、重複した記述は避け、その日のブログを、一層、深く掘り下げて書くようにしています。また、検索は、とても楽です。特に、過去ブログを探す時、凄く楽です。
2018/12/01 1:28:56 |