大河の一滴(4)

2021年1月8日

宗教の論理 今回も、五木寛之『大河の一滴』の論理を批判的に検討します。この目的を達成するべく、改めて、筆者(中西)の祖父の話をしておきます。 すでに説明しましたが、筆者の祖父は、太平洋戦争の沖縄戦を生き抜きました。そして、戦後祖父は、“気が狂い、自殺する”ことなく、仕事・結婚・子育てをこなしましたが、残念ながら、癌を患ってこの世を去りました(拙稿「信ずることと戦うこと」を参...

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    〈生老病死〉 前回は、〈悲〉の情感から出発する“前提”として、その情感をどのように見つめるのかという点が核心的であることを指摘しました。「他力」思想では、自己と神仏が一体化するため、ヨーロッパ文明とは異なって、「自分の内」で神仏と出会います。シリーズ最終回の今回は、〈生老病死〉の問題を取り上げて、「自分の内」を省みる際に宗教が入るという問題点について、五木の議論を批判的に検...

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    「戦争責任」について 五木寛之は、欧米と日本の宗教観の違いを踏まえて、「戦争責任」について総括を行っています。今回は、彼の総括を検討することによって、「他力」思想の論理の“前提”を抽出します。 さて、五木の考察を参考にすると、西洋文明の根底には、その宗教観や世界観を背景として、「外」から「内」へ向かうという客観性の論理が中核にあります。また、個人が神と向き合って契約を結ぶと...

    2020年11月23日

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    日本人の精神とは何か 今回は、欧米の宗教・世界観に関する前回の検討を踏まえて、五木寛之の「他力」思想の核心的論理を抽出します。近代日本が「アイデンティティの崩壊」に直面している中で、現在求められている「宗教的な感覚」とは、一体何なのでしょうか。 五木によれば、その「宗教的な感覚」とは、次のようなものです。「アジア全体がそうですが、日本人は縄文以来、森や山に生命を感じる、大きな木にしめ縄を張る。すべ...

    2020年11月9日

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    資本主義の精神 次回に、五木寛之の「他力」思想の論理を抽出するべく、今回は、欧米の宗教との比較を行います。五木によれば、近代社会の発祥地である欧米諸国よりも、むしろ日本の方が、「アイデンティティの崩壊」という近代の問題は深刻です。 まず、五木によれば、近代の知性は、ルサンチマンや情感を切り捨てました。実際、西洋近代は、神から授けられた人間の「理性」を前提としています。西洋文明の根底には、「客観性」...

    2020年10月31日

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    なぜ「絶望」すべきなのか 前回は、近代日本が「アイデンティティ」の問題を抱えている点を、五木寛之が深刻に捉えていることを確認しました。その問題点とは、日本人が「絶望する」ことが苦手だということです。より具体的に言えば、自己と日本人の存在理由を根源的に問うことができないということです。 今回は、この五木の指摘を踏まえて、「絶望」すべき理由とその意味について、より詳しく検討します。 さて、改めて確認し...

    2020年10月12日

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    近代の問題 今回は、再度筆者の仮説を説明して、五木寛之の議論を批判的に検討する視角を確認します。筆者の仮説とは、五木の論理に従えば、悪を自覚することまで「他力」にゆだねてしまうことになりかねないというものでした。要するに、「他力」思想には、罪の意識の弱さという問題があるということです。 この仮説を証明するべく、筆者は、五木の“論理的矛盾”を抽出してきました。その矛盾とは、〈...

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    親鸞の「無差別救済」 前回は、五木寛之の見解を批判的に検討して、次のように問いかけました。それは、人事を尽くすことを「天命」にゆだねるのであれば、悪を自覚することもまた「他力」にゆだねてしまうのかという問いかけです。 今回は、この問いかけの意味を説明するべく、オウム真理教に関する五木の見解を検証します。結論から言えば、麻原彰晃には、悪の自覚があるとは必ずしも言えないにもかかわらず、「他力」思想に従...

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    法然の教え 前回は、『人生の目的』の批判的検討に基づいて、五木寛之の思想の根幹に位置する「他力」について検討しました。簡潔に言えば、筆者(中西)の問題意識は、悪を自覚して神仏と向き合うことにも、「意志」(自力)が必要なのではないかということでした。 仏と向き合って悪を自覚する人が救われるのに対して、そうした「意志」を持たない人は救われることがない。だからこそ蓮如は、前回指摘したように、這い上がろう...

    2020年9月14日

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    『人生の目的』の論理 今回から、五木寛之『他力』の検討に入ります。初回は、『人生の目的』の批判的検討を行って、筆者の問題関心を明確にしてから、「他力」とは何かについての説明を行います。 前回明らかにしたように、五木は『人生の目的』において、「他力」の核心を説明していました。簡潔に言えば、その核心とは、仏の側から呼びかけてくれる、というものです。そのためには、おのれの悪を自覚しなければなりません。結...

    2020年9月7日

    中西 哲也

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    人生の目的(5)

    「他力」思想 今回は、〈人生の目的〉シリーズの最終回です。最後に、「信仰」について考えてみましょう。五木寛之の考えの根幹には、「他力」思想があります。結論から言えば、おのれの悪と向き合い、神仏を信ずることが重要だということになります。 まず、五木は、次の点を強調します。「悪は私たちすべての人間のひとりひとりに宿っているはずだ。善人と悪人、天使と悪魔、というように、はっきりと二つに分けないのが他力思...

    2020年8月31日

    中西 哲也

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    人生の目的(4)

    格差社会とその原因 前回の「肉親」に引き続いて、今回は、「金銭」に関する五木の考えを検討します。結論から言えば、お金は目的ではなく目標にすぎないが、それを軽く見ることはできない、ということです。重要な点は、五木が、「今の自分」と「昔の自分」という2つの立場を踏まえて、この結論を導いていることです。 さて、五木は、格差社会が再びやってくると述べています。「一部の富めるグループはますます富み、大多数は...

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    肉親をめぐる両面性 前回は、〈宿命と運命〉を受け入れることで生きつづけること自体の価値を肯定するという、五木寛之の論理を確認しました。なお、五木は、親鸞の〈業縁〉という言葉を、〈宿命と運命〉という言葉に読みかえていました。 さて、前回の記事を踏まえて、今回の記事では、「肉親」に関する五木の考えを検討します。前回の内容に照らすならば、私たちは肉親を選べないので、宿命として受け入れるべきだということに...

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    人生の目的(2)

    愛を自分の内に感ずる 今回は、「人生の目的」に関する五木寛之の考えと、その考えを支える論理について検討します。筆者(中西)の問題関心は、「創造性」よりも生きつづけること自体に価値を認める考えを、どのように肯定するのかという点にあります。 まず、五木は、次のように述べます。「人は運命にすべて支配され、その星の下でただ川に浮かぶちりのように流されてゆくだけなのか。私はそうは思わない。いや、思いたくない...

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    人生の目的(1)

    五木の議論の出発点 今回から、五木寛之の人生論を検討していきたいと思います。具体的には、『人生の目的』『他力』『大河の一滴』を取り上げていきます。 まず、今回は、『人生の目的』の初回として、次の点を検討します。それは、そもそも「人生の目的」について考える理由とは何なのか、という点です。 この点について考える上で、また、五木の人生論を理解する上でも欠かせないのが、次の衝撃的な事件です。 「妻に蒸発さ...

    2020年8月7日

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    信ずることと戦うこと

    祖父と沖縄戦 今回は、前回説明した問いを立てた動機について、より詳しく説明します。「創造性」とは異なる“生き方”について考えるきっかけとなったのは、祖父(母方)の“逝き方”について調べたことです。 祖父は筆者が生まれる前に亡くなったので、筆者は祖父と直接話したことはありません。しかし、祖母や母から伝え聞いていた話があります。そうした話の中で筆者が最も...

    2020年7月31日

    中西 哲也

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    人生の目的(無料公開記事)

    ゴッホの告白 今回から、新たな問いを立てて、探究を続けていきます。その問いとは、“人生の目的とは何か”です。 これまで、「創造性」の論理とは、「自分の内」から出発するというもので、それは“直観による内省”によって可能になることを論じてきました。簡潔に言えば、“直観による内省”とは、「狂気」を直視すること、すなわち、「自分の外」...

    2020年7月30日

    中西 哲也

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    「直観」について(8)

    小林秀雄のゴッホ論 このシリーズでは、今井むつみ『学びとは何か』を検討してきました。今回は、シリーズの最終回になります。今回は、“主観的に世界を視る”ことによって「生きた知識」を身につけるという今井の構図を、批判的に検討します。 批判的に検討する際に参考とするのが、小林秀雄のゴッホ論です。結論から言えば、小林はゴッホの手紙を考察した結果、次のように述べています。すなわち、「...

    2020年7月20日

    中西 哲也

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    「直観」について(7)

    「天才」とは何か 前回は、「意志の強さ」が「創造」を生む基礎となりうる点を確認しました。今回は、主に終章を検討対象として、「天才」とは何かについて確認した後に、超一流の熟達者になるための方法について考えます。 まず、今井によれば、「天才」とは、次のような人のことを言います。簡潔に言えば、それは、「探究エピステモロジー」と「新しい視点」を持っている人です。 「『天才』と呼ばれる人は、どこまでも探究し...

    2020年7月13日

    中西 哲也

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    「直観」について(6)

    「創造性」とは何か 前回は、「直観」と親和的な「批判的思考」があることを確認しました。今回は、この今井の分析を踏まえて、第7章を検討し、「創造性」や「天才」とは何かについて考えます。筆者の仮説に基づいて課題を設定するならば、「直観」と「批判的思考」を両立させる土台になるものは何かということです。 まず、「創造性」について、今井は次のように述べています。それは、「状況に合わせて自分独自のスタイルで問...

    2020年7月7日

    中西 哲也

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    「直観」について(5)

    知識ドネルケバブ・モデル 今回も、前回に引き続いて、今井の構図において、「直観」と「内省」が重要な役割を果たすことについて説明します。結論から言えば、「直観」と「内省」の関係に関する今井の指摘は、“直観による内省”という筆者の仮説に対して、重要な示唆を与えてくれています。 さて、今井が批判の対象とするのが、「知識ドネルケバブ・モデル」です。これは、次のような「知識についての...

    2020年6月29日

    中西 哲也

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    「直観」について(4)

    自動処理と制御処理 前回は、“主観的に世界を視る”ことによって「生きた知識」を生むという、今井の構図を検討しました。今井の構図に従えば、知識のシステムをつくり上げる上で、「内省」と「直観」が重要な役割を果たします。“直観による内省”という筆者の仮説に照らして、今井の論理を読み解いてゆく上での課題は、「直観」の重要性を強調しながら、「内省」の役割をどの...

    2020年6月24日

    中西 哲也

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    「直観」について(3)

    知識のシステムを創る 前回は、“主観的に世界を視る”という今井むつみの論理を検討しました。今回は、第2・3・4章を検討して、次の点を確認します。すなわち、「生きた知識」をつくり上げる上で、「内省」と「直観」が重要な役割を果たす、という点です。 まず、「生きた知識」をつくり上げるという目的を踏まえて、第2章では、知識のシステムを創ることの重要性が強調されています。今井によれば...

    2020年6月20日

    中西 哲也

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    「直観」について(2)

    「生きた知識」にするということ 前回は、今井むつみの書籍のエッセンスを確認しました。それは、簡潔に言えば、子どもによる母語の習得過程を検討対象として、「知識=事実の断片」として捉えるのではなく、「生きた知識」――知識が体の一部となること――を目指すというものでした。 今後同書を検討してゆく上で、同書のエッセンスを踏まえて、筆者が意識すべき点があります。それは、精神疾患から“元に戻す&r...

    2020年6月13日

    中西 哲也

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    「直観」について(1)

    意味を推測して、自ら学ぶ 今回のシリーズでは、今井むつみ『学びとは何か――〈探求人〉になるために』(岩波書店、2016年)を取り上げます。シリーズの初回は、筆者の問題関心に基づいて、「はじめに」と「おわりに」を検討します。 まず、筆者の問題関心とは、端的に言えば、次のようになります。精神疾患が「寛解」に向かう過程とは、子どもが母語を学ぶ過程と、ほぼ同じなのではないか。したがって、子どもによる母語の...

    2020年6月6日

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    「クリエイティブ思考」とは何か(16)

    「今」が「自分の内」にあるということ 前回は、筆者の経験を参考にしながら、“直観による内省”を明確にしました。実は、この筆者の考えは、小林秀雄の議論だけでなく、福田恆存の議論もモチーフとしています。シリーズ最終回の今回は、前回の内容を踏まえた上で、福田の議論を検討したいと思います。 さて、前回説明したように、筆者が経験から引き出した結論が、“直観による内省&rd...

    2020年5月28日

    中西 哲也

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    妄想の内容と仕組み 今回は、前回言及した小林秀雄の議論をモチーフにして、“直観による内省”の意義をさらに明確にします。その際に、筆者自身の経験を題材とします。 筆者の経験とは、「統合失調症」の罹患なのですが、次のような幻聴と幻覚が生じていました。それは、簡潔に言えば、“闇の世界”の人間が、筆者の存在を消そうとしているという内容でした。 具体的に言えば...

    2020年5月24日

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