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  • 太宰治

    妻から見た夫

    太宰治の再婚相手が、太宰について回想した著書を読み終えた。身近にいた人間が、「作家」太宰の「実生活」を詳細に語っている点で、非常に貴重であった。妻だけというより、他の人も妻に同感するかもしれないが、偉大な作家の実生活に関する評価は、かんばしくはない。具体的に言えば、「主観のかたまりのような人」で、「矛盾だらけ」であったそうだ。妻の証言によれば、現実に起こった出来事は、太宰の物語とは違っていたそうだ...

    2023年5月16日

    中西 哲也

  • 太宰治

    傑作

    太宰は、自分が生きる意味とは、後期に「傑作」を残すことにあるのだと考えていたふしがある。『晩年』を上梓する前、おそらくは死ぬ気で書いていたのだろう。しかし、彼が語っていたように、どうしてもこの処女創作集では死にきれなくなったようだ。残されている彼の手紙では、「早く死にてえ」というような表現が見られるが、早く傑作を書きたいという叫びであるように聞こえる。それゆえ、「小説」=「遺書」のように映るのは、...

    2023年4月17日

    中西 哲也

  • 太宰治

    生のなかに死をおさめる

    今更ながらではあるが、処女作を書いていて、一番ひっかかっていたのが、タイトルにある言葉だった。ビクトール・フランクルの言葉では、死を自分のものとするというような感じだったと思う。戦中から戦後を生き切ったものたちであるからこそ、説得力をもつことができたような言葉である。若輩者が吐いたところで、やはり話題にもならなかったが、医学的には幻聴・幻覚といえるような症状がおさまることがないため、「死」への衝動...

    2023年4月12日

    中西 哲也

  • 太宰治

    「真実」を求めて

    最近、東郷克美『太宰治という物語』を読んだ。私の現在の狙いは、かっこよく言えば、日常生活を営みながら、新たな「文体」を模索してゆくことだ。そのような意識をもって、同書を読んだ。改めて自分の処女作を見直すと、研究生活の影響があったためか、まだ文章がかたいようだ。まだまだ理屈っぽいようで、読者からは「読みにくい」という感想しか頂戴していない。東郷によれば、太宰は「転向」後、「話体」の表現に明確に移行し...

    2023年4月6日

    中西 哲也

  • 太宰治

    小林秀雄と太宰治

    発狂したと診断されて、太宰のように強制入院を経験して、7年経ってようやく処女作にこぎつけた。「死」をおのれのものとするというか、「死」をおのれの「内」におさめるとでもいうか。処女作では、生きて作品を残すために、戦後日本を生きた小林秀雄の議論を読み込むところから始めた。出版後、太宰の中期的な「小市民」的生活を送っているが、どうしても前述した「課題」を達成することができそうにもなくなってきた。幻聴・幻...

    2023年4月4日

    中西 哲也

  • 太宰治

    「作家」としての課題

    福田恆存や三島由紀夫に関する書籍などを読んでいて、「生活」と「芸術」が文学者に関する中心的テーマとして取り上げられていた。今回は、このテーマが、主観と客観(自分と他者)の問題とどのように関わっているのかについて考える。精神病院に入れられた経験から、太宰治に関心を持ったのだが、彼は率直に「生活がわからないのだ」と言っていた。ただ同時に、そのことが自分の文学の根幹になっているとも述べていたように記憶し...

    2022年10月23日

    中西 哲也

  • 太宰治

    太宰治『斜陽』

    今回は、太宰治の「斜陽」を、ドナルド・キーンの解説を参考にしながら読み解き、その意義について考えてみたいと思います。なお、『ドナルド・キーン著作集』は、第1巻と4巻を参照しました。『斜陽』は1947年に出版されましたが、翌年6月に太宰は自殺しています。同作品の主人公は、「没落貴族」で、まさに敗戦後の時代情勢に合致したものであったことも影響して、反響を呼んだそうです。さらに深く掘り下げると、外国出身...

    2022年10月17日

    中西 哲也

  • 太宰治

    松本和也『太宰治「人間失格」を読み直す』

    今回は、松本和也『太宰治「人間失格」を読み直す』(水声社、2009年)を取り上げます。以下では、同書の全体の構図を把握した上で、その論理を抽出し、それを批判的に検討します。まず、松本が批判の対象としているのが、“太宰治神話”です。簡潔に言えば、太宰治の「死」の謎は、彼の作品を読み解くことで解明することができるという考えです。そのため、彼の作品は、彼の実人生と照らし合わせて解...

    2022年10月9日

    中西 哲也

  • 太宰治

    作家と作品

    私は、軽い男のくせに、へんに堅苦しいところがあって、最初の著書は、ちまたに出回っているような内容が薄い本にはしたくないと考えていた。ただ、実際にその通りの形にしてみたが、評判はかんばしくない。引用文が多いからである。私は、自称「文芸評論家」として表現していきたいと思っているのだが、結局、所詮は「理論」から学問の世界に入らねばならなかった男なのだ。私の「核抑止」に関する学術論文は、理論的な枠組みを理...

    2022年10月4日

    中西 哲也

  • 太宰治

    齋藤孝『超訳 人間失格』

     今回は、齋藤孝『超訳 人間失格―人はどう生きればいいのか』(アスコム、2020年)を取り上げます。太宰治の名著『人間失格』が、齋藤孝によって丁寧に解説されています。この記事では、同書のあらすじを踏まえながら、重要な論点を整理してみたいと思います。 どの解説書でも指摘されているように、『人間失格』の主人公・大庭葉蔵は、人間の生活を理解できずに、おびえていました。葉蔵は、人間とのつながりを何とかつな...

    2022年9月18日

    中西 哲也

  • 太宰治

    『対照・太宰治と聖書』

     今回は、鈴木範久・田中良彦『対照・太宰治と聖書』(聖公会出版、2014年)を取り上げます。とくに「利用にあたって」と「解説」を読んで、太宰治と聖書に関する論点を、私なりに整理しておきます。 まず、太宰がもっとも重視した聖書の言葉は、「己を愛するのと同じように、隣人を愛せ」というものでした。つまり、自己と他者を対等に置くことができるかどうかが、太宰にとって大きな課題なのでした。太宰が自覚していたよ...

    2022年9月5日

    中西 哲也

  • 太宰治

    東郷克美『太宰治の手紙』

     今回は、東郷克美『太宰治の手紙』(大修館書房、2009年)を取り上げます。東郷は、太宰の手紙を検討して、太宰が自殺した理由について述べています。私は、とくに太宰の戦後の手紙に着目して、東郷の考えを紹介したいと思います。 太宰は、戦後「パンドラの匣」という作品で出発しました。これとその後の作品で書かれていた点は、太宰の手紙の内容と一致しています。具体的に言えば、太宰の理想とは、罪を自覚した者たちが...

    2022年8月16日

    中西 哲也

  • 太宰治

    斉藤利彦『作家太宰治の誕生』

     今回は、斉藤利彦『作家太宰治の誕生―「天皇」「帝大」からの解放』(岩波書店、2014年)を取り上げます。斎藤は、日本が太平洋戦争に向かい、そして敗北したという時代背景を踏まえて、太宰治という作家個人の思想を考察しています。 まず、そのような時代背景における特徴は、「家族国家」体制でした。それは、私生活の「家父長制」を基盤として、国家権力の天皇を父として崇めるというものです。とくに太宰の生家は、浄...

    2022年7月4日

    中西 哲也

  • 太宰治

    三谷憲正『太宰文学の研究』

     今回は、三谷憲正『太宰文学の研究』(東京堂出版、1998年)を取り上げます。太宰の『人間失格』が『如是我聞』と並行して書かれたことを踏まえて、志賀直哉批判との関連についても、三谷は説明しています。以下では、三谷の研究を参考にしながら、私なりに、戦後の太宰の動きを整理してみます。 一方で、三谷が経緯を詳細に検討しているように、当初太宰は志賀の文学を、幸せな生活に感謝することを書いた「不滅の文学」と...

    2022年6月16日

    中西 哲也

  • 太宰治

    太宰治の「桃源郷」

     前回は、安藤宏の書籍を取り上げましたが、今回は、安藤の議論を基礎として、太宰治が理想とした「桃源郷」とは何かについて考えます。参考資料は、安藤宏「太宰治と現代―「自己の内なる天皇制」」(『文藝別冊 KAWADE ムック 永遠の太宰治』河出書房新社、2019年)です。 簡潔に言えば、それは、天皇を倫理の儀表に据えて、個人が罪を自覚して、己を愛するように他者を愛するようになることです。この構想の背景...

    2022年6月9日

    中西 哲也

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    安藤宏『太宰治 弱さを演じるということ』

     今回は、安藤宏『太宰治 弱さを演じるということ』(筑摩書房、2002年)を取り上げます。安藤は、奥野健男が指摘した「罪の意識」ではなく、「関係」によって太宰文学を捉えようと試みています。それは、簡潔に言えば、「悲劇の英雄」というよりも、むしろ「関係の悲劇」でした。以下では、この安藤の視角を確認しながら、太宰治の前期・中期・後期を整理していきます。 安藤によれば、太宰の最大の特徴は、他者との間に「...

    2022年6月3日

    中西 哲也

  • 太宰治

    福田恆存『芥川龍之介と太宰治』

     今回は、福田恆存『芥川龍之介と太宰治』(講談社、2018年)を取り上げます。検討対象である福田の論考は、太宰治論なのですが、それは太宰本人と同時代に書かれたものです。それでは、福田はどのように太宰をみていたのでしょうか。 まず、以下の事実について確認しておきましょう。福田の最初の論考が発表されたのは、太宰が入水自殺をした1948年6月で、彼の死後に2本目が発表されました。当然ながら、福田の2つの...

    2022年5月15日

    中西 哲也

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    細谷博『太宰治』

     今回は、細谷博『太宰治』(岩波書店、1998年)を取り上げます。太宰治に関しては、このブログですでに考察してきましたが、彼の作品をどのように読むかについて、同書は興味深い視点を提供してくれています。それは、「大人の読み」です。私なりに説明すると、読者が自分の経験に照らして、太宰の作品を読むとき、自己をどのように意識するかということです。 細谷が指摘するように、太宰は、自分の経験を基にして作品を書...

    2022年5月3日

    中西 哲也

  • 太宰治

    加藤典洋『敗戦後論』

     今回は、加藤典洋『敗戦後論』(筑摩書房、2015年)を取り上げます。加藤は、2019年に『太宰と井伏』を刊行していますが、1995年の「敗戦後論」の中で、すでに太宰治について言及していました。それでは、加藤は『太宰と井伏』で、本格的な太宰治論を展開して、太宰が自殺した原因について考える前に、この「敗戦後論」において、どのように太宰を位置づけていたのでしょうか。 簡潔に言えば、『敗戦後論』では、「...

    2022年5月1日

    中西 哲也

  • 太宰治

    坂口安吾『不良少年とキリスト』

     今回は、坂口安吾『不良少年とキリスト』(新潮社、2019年)を取り上げます。太宰治と同じ「無頼派」として知られている作家の坂口は、1948年の時点で、どのように太宰の死を捉えていたのでしょうか。 結論から言えば、坂口は、太宰の死は彼の「虚弱」によるものだと考えています。坂口によれば、その特質は、「フツカヨイ」であって、太宰は「M・C」(マイ・コメディアン)になりきることができないという点にありま...

    2022年4月25日

    中西 哲也

  • 太宰治

    加藤典洋『完本 太宰と井伏』

     今回は、加藤典洋『完本 太宰と井伏―ふたつの戦後』(講談社、2019年)を取り上げます。加藤は、前回取り上げた猪瀬直樹『ピカレスク』に刺激を受けて、同書を書いたそうです。それでは、太宰治の死に関する猪瀬の仮説について、加藤はどのように考えているのでしょうか。 まず、加藤は、『人間失格』について、「ギリギリのところで、正直に語られているようだ」という印象を持っています。この小説では、「はしがき」や...

    2022年4月21日

    中西 哲也